オンライン会議で顔出しするか否か
テレワークが当たり前の世の中になり、日々の打ち合わせの多くをオンラインで実施している組織も多いことでしょう。物理的に隔絶された環境で有効なコミュニケーションを取る手段として欠かせないものとなっています。今回は、オンライン会議について、特に「顔を出すか否か」について取り上げてみます。
コロナ禍でテレワークが推奨されるようになってから、オンライン会議の需要が多いに高まり、以前は対面が当たり前だった多くのコミュニケーションがオンラインに切り替わりました。状況が許す職場では、完全に日常になっていると言えるでしょう。このような比較的新しいコミュニケーション手段においても、利用者が増えると「ビジネスマナー」として特定のやり方が示されたり、組織によっては、こうするべきというローカルルールが定められたりします。その中でも、Webカメラで顔を出すかどうかについては、賛否両論あるようです。今回は「顔出し」について、様々な角度で考えてみます。
顔出しの影響
WebカメラをONにするかOFFにするかという点は、通信状況や、組織でのルール、一般に言われている「マナー」などの要素もありますが、今回はそれらについては、考えず、「こうすると、こういう影響があるよね」という構造について考えることにします。そして、自分と相手、話す側と聞く側、さらに1対1と3人以上のような参加人数、それぞれの状態での話しやすさ、伝わりやすさ等の多くのポイントがあります。網羅的に見ると退屈なので、特筆したい点について見てみます。
話す側がONかOFFか
まず、自分が話す立場の場合に、自分がONにするかどうかについて、触れます。話している時には、自分に向かって話すわけでないので、ONでもOFFでも気にしていない人もいるかも知れませんが、オフラインよりは、話している自分も見えるため、それが気になることもあるようです。OFFにして、顔を出していない人は、マスクやサングラスをすると安心感を得られるのと同様に、顔が見えないことで守られている感覚を得られるのかも知れません。 OFFにして話す方が、話すことへのストレスが低いように思えます。
では、聞く側にとっては、どうでしょうか。特に「話の伝わりやすさ」に注目します。OFFの場合は、話し手の表情が見えないため、その内容によっては伝わりにくいかも知れません。人の気持ちを動かすようなメッセージを伝えたい時には、視線や表情、身振りも効果的に使うことで、より伝わることが期待できそうです。ただ、伝えたい内容が複雑だったり、細かな資料を見る必要がある場合には、顔が見えている方が返って集中できないかも知れません。余りにも表情豊かな人の顔を見ながら、資料もなしに細かな内容を理解するのは困難でしょう。気が散ってしまいます。その点で、オンライン会議では画面共有で一つの資料を見ながら話を進められるのは、効果的だと感じます。
聞く側がONかOFFか
では、自分が話す立場の場合に、聞き手の顔が見えているかどうかについて、考えます。話を伝える側にとって、前述した話しやすさも大事ですが、相手に内容を伝えられているかどうかは、最も重要なポイントです。この点で言えば、相手の顔が見えていた方がより有効なコミュニケーションが取れると言えるでしょう。
話し手は、相手が分かっているような表情をしているかどうか、相手が分かっている意思表示をしているかどうかで、別な表現で言い換えたり、例をあげたり、説明の仕方を変えることができます。複数人参加するオンライン会議では、コメントする時以外はミュートすることが多いようです。相槌を打つこともなく、表情も読めない参加者(相手は動かないアイコンや動物写真のこともあります)に対して滔々と語りかけても、分かっているかどうかのフィードバックがなければ、さらに言葉を重ねるか、相手の理解の如何を問わず、先に進むしかありません。これでは目的を達成したとは言えないでしょう。それでも、話し手が「自分は明確に言ったし伝わっているはずだ」と考えるのは、傲慢と言えます。相手が分かるように伝えるのは、伝える側の責任です。しかし、伝わっているかどうか、理解しているかどうかを話し手に伝えるのは、受け手の責任とも言えます。かと言って、カメラをOFFのまま、相槌だけ打っているのも、他の参加者にとってはノイズでしかないものです。聞き手はカメラをONにして、聞いていることに頷いたり、身振りや表情で積極的なフィードバックを返すことで、円滑なコミュニケーションに協力することが効率的だと思います。
話し手は、「本当に伝わっているかな?」と不安になりながら、話しているはずです。対面で話している時よりも積極的に分かってるよということを伝えてあげる配慮がお互いのストレスを下げます。
参加人数による違い
参加人数についても、ポイントがありそうです。オンライン会議の画面は、カメラがONかOFFかによらず、画面が人数分で分割されて表示されます。多くの参加者がカメラをONにしていると、参加者は、話しているかどうかに関わらず、常にその人たちの視線を受けているように感じられます。それに圧力を感じる人もいるようです。話す側にでもなれば、多くの聴衆の視線を浴びて演説するようなものです。なかなかストレスを感じます。
また、大人数の場合には、そもそも全員が対等に意見を言い合うというのは、全員カメラをONにしたとしても難しいのが現状でしょう。全員が同じ場所に集まっていれば、お互いの表情や呼吸の合間を無意識に感じながら、会話を進められます。最近のオンライン会議サービスは品質も良く、遅延も少ないですが、やはりまだ多人数が丁々発止の議論を交わすのは困難です。一方で、四人くらいの少人数であれば、実際にテーブルを囲んでいるような議論ができるように思いますが、これもカメラがONの方がよりスムーズでしょう。
意識的であることが大事
顔出しするか否かについて、構造的な影響について考えてみました。組織のメンバーや社外の会議参加者との関係性によっては、このような影響の度合いが少ない場合もあるでしょう。または、そもそも、ルールでしっかり決まっている場合もあるでしょう。
社内会議でも必ずONにするようなルールでは、 テレワークでの業務管理 〜それ「監視」になってませんか?〜 で書いたような居心地の悪さを感じるかも知れませんし、本来プライベートであるべき場所を会議参加者に公開することを強制するという意味にもなってしまいます。それを強要される側にとっては、大きなストレスですし、リモートハラスメントにも繋がります。このようにルールで縛ろうという意思の背景には、オフィスワークと変わらない管理をしたいというような気持ちがあるのかも知れません。テレワークは、コロナ禍により急速に進められた変化によるものですが、労働者にとって有用なワークスタイルとも言えます。以前と変わらないワークスタイルを目指すのではなく、変化を前向きに受け入れて、活用することでより良い未来に繋がります。
そのような「変化」の一つとして、オンライン会議を見た時、「顔出しで参加すること」あるいは、「顔を出さずに参加すること」の意味について意識的であることが、大事なのではないかと思います。出さない方が楽なのは事実ですが、それによってコミュニケーションの質が低下するのであれば、組織としての目的から遠のきます。では、全ての会議でONにして、可能な限り濃密なコミュニケーションをとれば良いかというと、そういうわけでもありません。両極端はよくありません。疲れてしまっては継続的に高いパフォーマンスは出せません。
オンライン会議をする目的は様々ですが、コミュニケーションをとって、その内容について理解し合うことは、最も重要な一つです。その目的のために、漫然と参加するのではなく、より良いコミュニケーションが出来るように意識的に配慮することが、最も大事なマナーであると思います。